やっぱり。
――砂利を踏みしめて、劫火の中事切れた子供を見下ろした。
虚の大群に襲われたこの集落はもう駄目だろう。
燃やし尽くす炎は、まるで送り火。
神様なんて、いなかっただろう?
<Kyrie Eleison>
現世にて虚の群れが現れたとの報告を受けて、
僕ら十一番隊は、いつも通りの手続きを踏み、今しがた仕事を終えた。
燃え盛る炎の中、熱風が、血塗れの僕の身体を撫ぜる。
火の赤なのか血の紅なのか、分からなくなるほど僕は朱に塗れていた。
僕だけじゃなく、皆。今日は特に血飛沫が酷くて、荒々しくて。
結局、”虚に殺された整が虚に食われずに済んだ”ことが幸いで。
「…如何した。何処か怪我してンのか?」
あまりにもじっと俯いて動かない僕を心配したのか、
一角が訝しがりながら傍に寄り、僕の背中に声を掛けた。
「……ねぇ一角、死んだときのことって…覚えてる?」
僕の瞳は空虚なばかりで、まるで鏡のように目の前の事は眸に写すだけで。
思い出してしまった。思い出さずとも生きていけたあの日の事を。
「はァ?…ンなこと急に言われても、覚えてねぇし思い出せねぇよ」
「僕は覚えているよ」
八つ当たりするつもりなど欠片もないのに、声色は強く。
ぴんと爪弾いた琴のように、赤銅の音色に混じって揺れた。
――耳の奥で、目の前で息絶えた子供の声が木霊する。
か み さ ま
――途端心臓ごと肺を鷲摑みにされたかのように、僕は呼吸を無くした。
た す け て
――血化粧に彩られた其の眸が、硝子球のように空を映し出して尚、目を背けられずに。
”神様なんて居なかった”
そう真っ暗な星空に呟いたのは、虚に胸突かれた己の絶命の刻。
どんなに願っても、祈っても。この世を救うと信じていたのに、そう教えられたのに。
救ってくれる神様なんかいない、ずっと。
「…死神は、殺す神様なんだね、きっと」
自嘲気味に笑って僕は、既に抜け殻となった子供に祈りを手向けた。
指を絡め、手を組み合わせて。生前習った神様への祈り其の侭に、膝をついて。
「じゃなかったら、誰が虚を殺すっつぅんだ、オイ」
「……いいなぁ、一角は幸せで」
「あァ?!オイこら弓親!テメェ今のはどういう意味だ!」
「別に、言葉其のままだけど?」
振り向いた顔は
…大丈夫。笑えてる。いつも通りに。
淑やかな笑みを浮かべ、朱色に染まったまま歩き出す。
祈りの先にあるパライソがあんなに救いのない世界だということに。
僕はあの世界にたどり着いたとき、死して尚、もう一度呟いた。
”やっぱり”
”神様なんて居なかったね”
――Kyrie Eleison.
ソレは、居ない神様に奉げる恨みの言葉。
<END>
Kyrie Eleison=主よ、憐れみ給え
恐らく初BLEACH作品。書いたのは確か去年。PCの奥から掘り出しました。
弓は何となく隠れキリシタンぽいなぁと思って書いた話。
当時の自分は一体何を如何考えていたのか、今は知る由もない。
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