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三条琉瑠@秘姫堂のHP兼ブログ。BLEACHで弓受で徒然なるままに。 新旧十一番隊最愛。角弓・剣弓・鉄弓などパッションの赴くままに製作中。パラレルなども取り扱い中。 ※お願い※yahooなどのオンラインブックマークはご遠慮くださいませ。
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三条琉瑠
性別:
非公開
自己紹介:
明太子の国在住の社会人。
小咄・小説を書きながら細々と地元イベントにサークル出していたり何だり。
弓受なら大概美味しく頂けます。



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 一ヶ月の始末書が他隊の一年分とか。
 一ヶ月の虚討伐数が他隊の一年分とか。
 一ヶ月の酒の量が他隊の一年分とか。


 そんな伝説だらけの十一番隊で過ごした恋次にとって、忘れられないことがひとつある。
それは、確か席官になって始めての花見の席であった。


 <つきにむらくも はなにかぜ>


 桜の名所として知られる瀞霊廷の外れ。
四季折々の花が美しく咲き誇る其処は、夜桜の凛とした空気を吹飛ばすような喧騒に包まれていた。
飲めや歌えや、とはこの状況を言わずに何を言うのだろう。
十一番隊総出の花見は、開始から数刻、今まさに桜と同じ盛りを迎えようとしていた。

「おーい恋次、酒ねぇぞー!」
「はいっ、今すぐ持っていきます!」

 先輩である一角の声に、恋次は急いで酒瓶を掴むと、人を掻き分けて其処へ向かった。
席官とはいえ隊の中で若年者に当たる恋次は、今日も右へ左へといわれるままに御用聞きとして動き回っていた。
…恋次自身もそれにもう慣れてしまったというのが、些か悲しい事実ではあるのだが。

「スンマセン一角さん、どうぞっ」
「おー悪ぃな。どうだ恋次、呑んでるか?」
「いや正直ンな暇ないですって…」

 相手の持つ杯に並々と酒を注ぎつつ、かけられた言葉に恋次は苦笑を浮かべた。
席を勧める一角の好意に預かり、腰を下ろして目の前の揚げ物をひょいと口に放り込んだ。

「お前、花見の席で呑まねェなんざ、隊長に知れたら殺されるぜ?」
「えぇえそれだけで俺殺されるんですか!?」
「五回は確実に殺されるな、間違いねェ」
「俺の命は花見五分の一回分ですか…軽いなぁ、俺の命」

 ようやっと腰を落ち着けてご相伴に預かった恋次は、手酌の酒を頂きながら、見事なほど満開の桜を見上げた。
丁度今夜は満月。月明かりという名の透ける金色の紗々を纏った桜は、そよぐ風に気持ち良さそうに揺れている。
酒で熱くなる肌を程よくくすぐる春風に目を細め、一角と語らいながら恋次は酒瓶の中身を減らしていった。
 そうやって良い気分になり、非常に軽い心で雑談を楽しんでいたその時。

「のぉ、一角、と恋次…おんしら、弓がどこ行ったか知らんか?」

 頭上から掛けられた声に、恋次は天を仰ぐ形で声の主を見上げた。

「射場さんと一緒に居るんじゃねェの?俺てっきりそうだと思ってたンだけど」
「ワシのところに居ったら、何で聞きに来るかっちゅうんじゃ」
「あー…俺ちらっと見ましたよ」

 自分の頭上越しに話す二人の間に、心持ち小さめの声で、恋次は割って入った。
控えめな挙手で自己アピールをする恋次に、殆ど睨みとも言った方がしっくりくる目線で、先輩二人は後を促す。

「えーと…その、あの桜の根元の…更木隊長のところに…確か…」

 一気に冬に戻ったかのような、流氷の割れるようなぴしりとした空気が生まれた。
あの、と示した指先が微か震えているのは、寒さではない。酔いなぞ一瞬にして吹き飛んだ。
自分の背筋を落ちていく汗を感じ、恋次は密かに思っていた。言わなきゃよかったのかも、と。



「それにしても隊長、こんなに賑やかだと…桜が怒っちゃわないですかねぇ…?」
「アァ?何言ってやがる、花っつぅのは見られるために咲くモンなんだ。誰にも見られず散る花なんざ、咲いた意味もねぇ」
「ふふっ…そうですね。きっと桜も喜んでるのかなぁ…」

 ハッキリ言って、隊員達は困りきっていた。
周りの喧騒に比べ、此処の場所の空気はしっとりと…寧ろ艶やかささえ感じられていた。
桜だけのせいではない。問題は、その桜の真下の特等席で、我らが隊長に赤い顔で凭れ掛かっている五席だ。
 桜より僅かに濃い薄紅色に染まった頬、とろんと春の陽気のように潤んで蕩けた瞳。
酒に酔って暑いのか、着物を肩口まで広げ、手扇で己の身体に外気を送る。
普段の服・性格共に鉄壁のガードが嘘のようで、平素を知る隊員達は、それだけでどぎまぎしていた。
 正直、生唾飲み込みたくなるほど色っぽい。
綺麗な上に少し間延びした喋りが可愛く思えるし、大人しく猫のように甘える様子は文句のつけようがない。
あの隊長が、くっつかれるのを黙って許容しているのが何よりの証拠だろう。今の五席は”イイ”のだ。

(だけど待て、あの五席だぞ?)
(あんなくすくす笑って、色っぽ…いやいや)
(男だろ?何で俺ら男にドキドキしてんだよ!)

 そんな平隊員たちの葛藤は全く伺い知ることなく、弓親はお猪口をくいと空けながら隊長にしなだれかかった。
自分とは逆側の膝で眠っているやちるを起こさぬよう静かに、隊長の胸にぴたりと甘える。
桜以上にピンクな空気が立ち込めるその場所で平隊員達が己の理性と葛藤していた其処に、場にそぐわぬ叫びが響いた。

「こンのアホやっぱり呑んでやがるー!」
「隊長、あれだけコイツには酒呑ませんといて下さいて言うたでしょうが」
「あ、スンマセン、お邪魔します…」

 席官三人がずかずかと…いや、一人はすまなさそうに静々と、人の輪を潜り抜けて入ってきたのに、
平隊員たちは思わず席を譲り、すすっと身を引いた。
それ幸いとばかりに真っ先に一角が歩み寄り、隊長の膝の上で甘える弓親の襟首をぐいと掴んで引き寄せた。
 
「お前熱くなったからって見境なく脱ぐンじゃねェ!犯すぞ!」
「何さー、熱いんだから仕方ないじゃんかー…一角のえろー」
「アァ?今のは脱いだうちに入んねぇだろうが。脱ぐっつぅのはもっとこう、な」
「隊長は黙ってて下さい、てか弓親に呑ませたのはアンタかー!」
「だって隊長が呑んでいいっていったんだもん…ねぇ?」
「お前はもっと黙ってろ、むしろもう寝てろ!」

 弓親の胸倉を掴むような形になりつつ、一角は服の前を合わせなおしてやり、乱れた着衣を整えた。
茹蛸のように真っ赤になりつつ隊長と弓親との二人相手に既に劣勢明らかである一角を見やり、恋次は射場にこそっと言った。

「…つか、弓親さんの酒癖ってそんな悪いんですか」
「アイツは甘え酒じゃ。可愛くなるけぇ、悪くはないんじゃがの」
「…だけど?」
「場所相手お構いなしにあぁなるけぇ、困る」
「スンマセン、それ本当に困ってるんですか?」

 もしもーし、と言葉を投げかけた恋次を放置して、今度は射場が三人の傍に寄った。
一角の怒りを斜め上気味に放り流す隊長と、まともにその相手をして自ら消耗戦に持ち込んでしまっている一角をよそに、
両腕を伸ばし、手早く弓親を回収し、すたすたと歩いて戻ってきた。いわゆる、抱え上げの体勢で。

「おんしは呑むなと言うとったじゃろ。どがんして呑むんじゃ?んん?」
「だって鉄さんー、美味しかったんだもんー…」
(っていうか抱っこかよ!)

 オイ、と空中に空しくツッコミを入れる恋次の前まで来て、射場は弓親をすとんと降ろした。
降ろされた弓親は物足りなさそうに射場にごろごろと甘え、すりすりと抱きつきながら体を寄せている。
顔をあわせ、頭を撫でながら言い聞かせるように叱る射場の声の楽しさに、恋次は”この人絶対困ってねぇ…!”と確信したとき。


「れんちゃん~…」
「うぉっ!?…って、どうしたんスか副隊長?」

 袴をくい、と引っ張る感触を受け、思わず恋次は自分の足元を見下ろした。
するとそこには、先程からの騒ぎで起きてしまったのであろうやちるが、眠たげな目を擦りつつ、自分に抱っこをせがんでいた。

「お部屋帰って先にねるの~…れんちゃん、つれてって?」
「あー、眠いんスね…いいっすよ。んじゃ行きましょうか」

 今にも眠りそうにうつらうつらと頭を上下させるやちるを抱え上げ、はは、と恋次は小さく笑った。
正直この場から逃げ出したい気持ちもあり、くるっと踵を返し隊舎に帰ろうとした。

 どんッ。

「うあッ!!?な、何だ、って弓親さん!?」
「恋次はいい子だねぇー、ちゃーんとやちるちゃんのこと、送ってあげてね…?」

 ちゅっ。

 くすくすと淑やかに笑う相手の声が耳について、恋次は一瞬、何をされたのか判らなかった。
後ろから飛びつくようにふらりと抱きついた弓親の唇が自分の頬に触れたのだと気付いたのは、
間近に来た顔と遅れて感じた柔らかな感触。それと。

 先輩達の凍てつくような怖い目線のおかげであった。

「…敵の敵は味方っつぅ言葉があるよな、射場さん」
「共通の敵が居ると結託するっちゅうアレじゃな」

 再び、恋次の背中を汗がたらりと滑り落ちた。
しかもそんな時によりにもよって、腕の中で完全にスリープモードに落ちているやちるに同調するかのように、
自分に抱きついている弓親が眠たげにうつらうつらとその身体が舟をこぎ始めた。

「ちょ、弓親さん、ココで寝ないで下さいよっていうか頼むから俺から離れて…!」
「オイ、恋次。ついでだ」

 泣くほどの恐怖、或いは後悔が有るかといわれれば、この後の数日は其れに他ならなかった。
更木の次の一言を、まるで死刑宣告のような気分で恋次は聞いた。
そしてそれをNOと言える余裕もなければ、そんな立場でもなかった。

「弓親もそのまま隊舎まで連れてけ。何ならやちるの部屋に寝かせていいからよ」


 ――十一番隊で学んだものは何ですか?
そう聞かれれば、恋次は真顔でこう答えるだろう。
 ――人の間の立ち回り方です。

<終>
EMPTY BRAINの澪さまに差し上げました、
旧十一番隊お花見話(弓総受)です。
私がメッセの名前欄に「花見行きたい」と出しておりまして、
其処に澪さまが反応してくださったところから始まりました。
うちの弓の愛され具合は、デフォルトでこんな感じで。
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