※一度下げていた【はにかみ3】の加筆修正再アップです。
こちらは前編。近いうちに後編もアップします。
そこはかとなく現世パラレルな感じでお読みいただけましたら。
誰と、誰が、いつどこで、何をする。
一角と、風邪を引いた弓親が、弓親の自宅で、看病。
< いつどこはにかみ 角弓3~前 >
「ゴメン一角、風邪引いたみたいだから…今日、休むね?」
『は?テメェ風邪引くなら引くって前もって言っとけよ!』
今に始まったことではないけれど、勝手だ。
熱に浮かされて朦朧とする意識の中、携帯から返された声に弓親は少し怒りと、呆れを覚えた。
「……そういう問題じゃないし…だから今日、休むって伝えといて…」
『待てコラ、弓親!』
「…なに…?」
慌てた声に、既に掠れた声で微かに問い返す。
続いて聞こえた一言は、力の抜けたこの身体を更に脱力させるに十分だった。
『テメェ、俺と風邪とどっちが大事だ!』
「………一角、理不尽だよ…じゃ、本当に辛いから切るね…オヤスミ」
ピッ。
ディスプレイに浮かび上がる通話終了の文字。
空ろな頭でボタンを操作し、サイレントモードに切り替える。
サイドボードにカラフルな携帯を投げ置くと、布団を被りなおし、眠る体勢になった。
今に始まった理不尽じゃないけど、やっぱ一角って馬鹿だ。
どうして好きなんだろう、あんな奴なのに。
もぞ、とベッドの上で身体を身じろがせ、熱に浮かされたまま、眠りに入ろうとする。
でもやっぱり……好きだ。
どうしても理由のつけられない感情にそう結論付けたと同時に、意識は落ちていった。
一体どれぐらい眠っていたのだろう。
真っ白な天井と自分の荒い吐息が混ざり合って、ぐらぐら回る感じがした。
何度目覚めて眠ってと浅い周期を繰り返しただろうか。
ふと、弓親は物音に目を覚ました。
「よ。目ェ覚めたか?」
ベッドの上から覗き込む一角の姿に、胸の中がじわりと温かくなる。
息苦しさに不安げに見上げると、静かに其の手が髪を撫でた。
不意打ちで、卑怯だ。風邪で弱ってる自分にそんな風に優しくするなんて。
――其処まで思ってあることに考え付き、聞かなければ優しいままに思えそうなのに、
それでも言葉は、思った不安をそのまま口にしていた。
「……ちょっと待って一角…合鍵、いつ渡したっけ…?」
身体を起こすことも辛いため横になったまま不安げに聞けば、明朗な答えが帰ってきた。
「何言ってやがんだ。俺にとっちゃ合鍵を作るなんて朝飯前だぜ?」
「それ勝手に作ったんでしょ…何やってるの、殆ど泥棒だよ?最ッ低…」
「お前なぁ、人が親切で来てやッたんだから、もーちょっと礼の言い方ッつーモンねェか?」
「…言っとくけど圧し掛からないでよ。強制力と言う名の蹴りかましてやるんだからね…」
覇気のない声で文句を返す弓親の額を撫でると、
寝とけ、と一言告げ、一角はベッドから立ち上がろうとする。
ぐ、と、軽い感触。
何かと思って振り返れば、弓親の手は弱弱しくズボンを握っていた。
其の表情があまりにもたおやかで、儚くて、切なげで。
「…帰ったり消えたりしねェからよ。ちょっとだけ、待ってろ…な?」
ぽん、と頭をもう一度撫で、に、と笑いかけてやる。
渋々と言った感じで頷き、手を離した弓親をベッドに寝かせたまま、一角は台所へ向かった。
(何か…悔しい…)
熱に浮かされてだるいままの頭でぼんやりとそう思いながら、
弓親は少しだけ唇を尖らせた。
怒っているわけではない、のだけれど。ただ、その優しさが悔しいのだ。
それでも、一角が居ることに安心する自分が居る。
一角が来てくれたことに、嬉しくて、縋ってしまいそうな自分が居る。
(……勝手だなぁ…)
枕に突っ伏した顔で、少しだけ溜息をついて。
汗ばんだ体の重さに眉を顰めつつ、気づけば意識は柔らかくまどろみ始めていた。
再び目が覚めたとき、部屋には柔らかな香りが漂っていた。
それがお粥だと気づくと瞬きを数度し、帰ったのかと一角の姿を探す。
と。
「ンな顔しねェでも帰らねェつったろうがよ」
<後へ続く。一旦CM入ります>
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