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三条琉瑠@秘姫堂のHP兼ブログ。BLEACHで弓受で徒然なるままに。 新旧十一番隊最愛。角弓・剣弓・鉄弓などパッションの赴くままに製作中。パラレルなども取り扱い中。 ※お願い※yahooなどのオンラインブックマークはご遠慮くださいませ。
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プロフィール
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三条琉瑠
性別:
非公開
自己紹介:
明太子の国在住の社会人。
小咄・小説を書きながら細々と地元イベントにサークル出していたり何だり。
弓受なら大概美味しく頂けます。



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※新旧十一番隊の頃の話。七夕小噺。
 ほのぼのです。


 隊舎の中庭にどんと刺さっているソレ。
ヘタすれば屋根に届くくらいの背はあるだろうか。
一角は思う。昨日まではあんなのはなかったハズだ。

「…なァ弓親、ありゃ何だ?」
「笹だよ。副隊長が欲しいって言ってたから、隊長がどこからか貰ってきたんだって」

 そびえ立つソレを見上げながらの一角の言葉に、弓親はさらっと答えた。
笹のすぐ傍の縁側には、殺風景な隊舎を彩るかのように、色とりどりの千代紙。
短冊や、果物や野菜を象った飾り細工。

「つるりんも手伝って!今から皆で笹飾り作るんだから!」

 元気なやちるの声に振り返れば、恋次が情けなさそうな顔をしつつ、
せっせと紙を折っては切り、輪にして繋げる、という作業をこなしていた。


 < 桶に水張り七夕空を見てみよか >


「…つか、絶対他の隊の奴らには見られたくねェ姿だなコレ…」
「あー、間違いなく噂にされますよね…」
「バカか恋次、笑い話にされるに決まってンだろ」

 手先が器用だからと笹飾り作りのリーダーを任された一角が、眉間に皺を寄せて呟いた。
そう忌々しげに言う間にも、手の中の千代紙はさっと吹流しに姿を変え、
笹飾りをひとつ、またひとつと作り上げていく。
その手際のよさを感心して眺めながら、恋次は苦笑いを浮かべた。
くると自分の後ろを振り返り、いかにもいかつい隊員たちが、文句のひとつも言わずに
いそいそと笹飾りを作る姿が目に入れば、確かに思う。
 コレを見られたら末代までの笑い話にされそうだ、確かに。

「みんなー頑張ってー!今お料理作ってもらってるからねー」
「「「はーい」」」

 やちるの明るい声に、野太い返事が返される。
他の隊からは疑問を唱える声もあるが、やちるは名実ともに間違いなく十一番隊の副官である。
三席以下が誰も逆らえない今の状況が何よりの証拠だ。
色とりどりの輪を連ねていきながら、恋次は改めてそう思っていた。

「…そういやよ、恋次」

 不意に一角から声をかけられ、はい?と恋次は顔を上げた。
吹流しにより糸を通しながら、一角は真顔で聞いた。

「何で七夕ッつーのは願い事を短冊に書くんだ?」
「え?!いや…七夕だからじゃないですか…?」
「それがどうしてだッつーの」
「……スンマセン、ソコまでは流石に…」

 つなぐ前の輪を手に固まってしまった恋次を横目に、
作業していた隊員たちに一角は視線を寄越す。
当然、無骨な戦闘集団を名乗る中でソレを知る者が居る筈もなく、
当てずっぽうな考えや今考えましたと言わんばかりの意見が、交差し始めた。

「天の川渡るくらいの奇跡が起こるからじゃないんすか?」
「俺昔かーちゃんに、お星様が聞いてくれるからって聞いたぜ?」
「お前お星様って…」
「ナスの飾りとかお供えするついでじゃなかったか?」
「三席は知らないんですか?」
「バーカ、知らねェから聞いてんだ」

「昔はお裁縫や機織が上手くなりますよーにってお祈りしたからなんだって」

 皆が作った飾りを笹に飾り付けていたやちるが、不意に答えを出した。
んしょ、と脚立の上でより糸を結びながら、言葉を続ける。

「二つの星は農耕の星と織物の星だから、ナスの飾りをお供えしてたくさん取れますよーに、とか
 短冊は布で飾って、もっとお裁縫上手くなりますよーに祈ったんだって…剣ちゃんが言ってた」
「は!?隊長が?」

 やちるの口から出た答えの出所の意外さに、思わず恋次の手が止まった。
一角が怪訝そうにそちらを睨むと、やちるの横で飾り付けを手伝っていた
弓親が向き直り、少しだけ苦笑を浮かべた。

「そんな顔しなくても、今の説明はどこも間違ってないよ。全部、正解」
「ねーナルちゃん!ほーら、剣ちゃんは間違い教えたりしないんだから!」
「いやまぁそうかも知れませんけど…」

 硬直から戻った恋次が恐る恐ると言ったように進言すると同時に。
やちるはぴょいと脚立から降り、残りの飾りを縁側まで戻しにきた。

「じゃ、あたしお着替えするから後飾りつけしててね!」
「オイこらドチビ!最後までやってけっつの!」
「さぼったらご飯抜きなんだからねー」

 一角の言葉など耳に入らないかのように、飾りの入ったざるを置いて
たたっと縁側を走り始めてしまったやちるに、弓親がくすくすと笑みを零した。

「副隊長、楽しみにしていたからね…」
「…まァな。んでよ弓親」
「何?」
「今日の食事ってのは、酒出ンのか?」
「勿論。料理だって、今鉄さんが魚捌いてるところだし」
「ンじゃ、ちょっくら頑張るかねっと…オーイ、テメェら作るのもういいぞ、飾りつけ手伝えー」

 日暮れも近くなった庭に出る一角を眺めながら、弓親は夕空を眺めた。
見上げる空は透き通った山吹色。この分なら、星は見えるだろう、と。


 やがて飾りつけも終わり日が落ちると、死覇装から私服に着替えた隊員たちが
笹が良く見える部屋に集まり、障子を開け放して宴会となった。
冷たく盛られた刺身や冷えた野菜など、火照った身体を心地良く冷やす食事と
氷水の桶に瓶ごと入れられたよく冷えた酒。
 笹を飾り付けるまでの労を各々に労っていたとき、射場が一角を手招きした。

「何すか射場さん」
「のぉ一角、ちぃと聞きたいんじゃが…笹の短冊、全部何も書いとらんのは何でじゃ?」
「短冊…?」

 手招かれるままに縁側に出て笹を凝視する。
五色の短冊がかかっているけれど、確かに良く見ればそれは全て何も書かれていない。

「いや、俺が飾りつけた時には短冊なかったンすけど…オイ恋次ー」
「あ、はーい直ぐ行きます」

 首を傾げたままの一角が今度は恋次を手招き同じコトを聞くと、
あぁ、と恋次は小さく頷き、頭をかきながら答えた。

「飾ったのは俺ですけど…隊長から”後はコレ飾っとけ”って渡されて…」
「隊長から?」
「あぁ…そんならエェわ。スマンの」

 聞き返した一角とは対照的に、何かを納得したかのように頷く射場に、
恋次と一角は二人して首を傾げた。
と、そこにぴゅんっと何かが飛んできたかと思うと、射場の背中にぺたっと張り付いた。

「いばっちー、お酒どこー?」
「ん?どがんしたんですお嬢、何ぞ、おつかいですか?」
「うん、剣ちゃんのお酒なくなっちゃったから貰いに来たのー!」
「ほんなら一緒に中行きましょうかの。一角、恋次、ワシはこれでの」

 空っぽの硝子瓶を振ってそう答えたやちるをおぶったまま、
射場は部屋の中へと戻っていった。
縁側に取り残されてさてどうするか、と顔を見合わせた二人のところに、
先ほどやちるが来たほうとは逆から弓親が歩いてきた。
手に抱えた小さめの桶に張られた水が、ちゃぷん、と微かに揺れる。

「…どうしたのさ、二人とも」
「いや…あのよ弓親、短冊に何も書いてねェワケ、知ってるか?」
「え?どうして?」
「射場さんは知ってるみたいなんですけど、俺も一角さんも教えてもらえなくて…」

 ぽり、と頭を書く恋次の言葉に合点がいったのか、弓親は静かに笑った。
縁側に水桶を置いて腰掛けると、つられるように二人も腰掛けた。
軒先で大きく背を伸ばす笹を見上げながら、弓親は笑いながら、言葉を紡ぐ。

「最初は僕と副隊長とでお願い書いてたんだけど、そしたら隊長がね…
 ”星に願うような事が叶うはずねぇ、叶えたきゃ自分の手で掴み取れ”って」

 あの人らしいよね、と呟いた言葉に、一角はくつ、と喉から笑みを零した。
恋次もはは、と少し笑いを浮かべると、あの人らしいっすね、と頷いて。

「あー、ナルちゃーん…その桶なぁに?」
「副隊長、お待ちしてました…お見せしたいものがあって」

 部屋の中からお酒を満たしたお銚子片手に縁側に戻ってきたやちるに、
弓親は桶を縁側のふちに置くと、こちらへ、と手招いた。
これ持ってて、とお銚子を恋次に預け、白に赤の金魚が泳ぐ柄の浴衣で、
薄桃色の金魚帯を揺らしながら、やちるはててっと桶に近づいた。

「…?何も入ってないよ?」
「水面を、よく見てください」

 じぃっ。
やちるだけでなく、一角や恋次も、水を張った桶に見入る。
何も入っていない、黒の中に白が点々とあるだけの水面に
大人二人は首を傾げたが、やちるはあることに気付いて目を輝かせた。

「ナルちゃん、お星様が写ってる」
「えぇ、そうです。そしていいですか…?」

 ふぅー、と。
吐息が水面をなぞると微かな波が起こり、水面に映し出された星空が
ゆらゆらと不規則にゆれ、その姿をぼやかした。
見入りながらも不思議そうにするやちるに、弓親の言葉は魔法の一言のようだった。

「今、水面が揺れることによって、二つの星がお互いに近づいたんですよ」

「…じゃあ今、おりひめとひこぼしが会えたの!?」
「はい、そう言うことです」
「凄いすごーい!ナルちゃん、もっかいふーして!」
「同じ人が何度も揺らしてはいけないんですよ。本当は風でなければいけないんですが…」
「じゃあれんちゃん団扇持ってきて!風おこして!」
「えぇえ!?俺っすか!?」

 文句は言いつつも、逆らえないのが十一番隊の副隊長。
お銚子を近くにあった盆の上に置くと、慌しく部屋の中に入って
涼を取るための団扇を借りて縁側に戻り、ご希望通りにぱたぱたと風を起こし始めた。


 中庭で、笹の葉がさらさらと風に揺れる。
満点の星空の下、喧騒を少し遠くに聞きながら。
かさ、と白いその手がひとつ、短冊を飾る。

「…隊長に怒られても知らねェぞ、弓親」

 後ろから不意にかかった声に、小さく笑んで。

「さぁ、僕が書いたって証拠はないし」
「ンじゃ俺が黙ってりゃイイ訳か」
「そういうこと…ね?」

 一歩一歩と真後ろまで寄ってきた一角は、飾られたばかりの短冊を手に取った。
流暢な文字で書かれた言葉を読むと、くつと喉で笑う。
最高、と笑いながら親指を立てた一角に、弓親は微笑で返して。

「…そういやよ」
「何?」
「さっきの桶のヤツ…」

 指差した縁側では、恋次がまだ甲斐甲斐しく団扇を仰いでいた。
もっともっとー、と強請るやちるをそろそろ止めようかと部屋から出てきた射場が見える。
指差した先を見ながら、あぁ、と弓親は言いにくそうな表情を浮かべた。

「…副隊長が、”本当に七夕には二つのお星様会うの?”って何度も言うから、
 何とかしろって隊長に言われて…」
「…成る程な」

 笹と笹飾りが、風にさらさらと音を立てる。
夏の気配を感じる温い夜風を感じながら、一角と弓親は顔を合わせ、また笑った。


 『いつまでも、更木隊の絆がありますように』


<星にも願いを>
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