※恋弓(♀)
【黄泉比良坂】の続き…かな。
コトの後ですがギャグです。しっとりした空気を期待した方ゴメンナサイ。
でもこれがうちの恋次のいつものスタンス(笑)
やっちまいました。
正気に戻った俺は今布団の上で、土下座とも何ともつかない体制なわけで。
簡単に言うと。
_| ̄|○
【 蜘蛛の糸 】
「いや…ホンットすいません弓親さん…!!」
俺のナニやら弓親さんのアレやらでぐっしょりになった敷布団の上で、
涙目のまま粗い息をつくろおうとする弓親さんに、俺は恐る恐る声をかけた。
魔が差したのが二刻前。
くんずほぐれつ一刻前。
正気に戻った十分前。
軽く五回は死ねる位のコトじゃない。軽く誤解で地獄に堕ちれる…!!
そんな断罪の風景を思い浮かべれば、体中から冷や汗が噴出した。
握りこんだ手が何だかぬるっとする。
「……恋次…」
「はっ、はい!!」
弓親さんの言葉に俺は思わずびしっと正座をして、
寝転んだたままの弓親さんに、大丈夫ですか?と思わず聞いた。
いや、軽くヤバイ。弓親さんも俺の命も。
「ッ…あ、あの、本当にスンマセンでした!めっちゃ魔が差しました!!
だからその、今日のことは犬にでも噛まれたと思って、本気、
俺も何もなかったことにするんでその、や…っ、ヤっちまったこととか、俺も、忘れ」
「くどい!」
みしり。
土下座する俺の頭に、弓親さんのカカトが沈んだ。
「ッ……い、いいカカト落としですね…弓親さんの右足なら世界を狙えますよ…」
「今のは左だよ」
ぴしゃりとそう言い放った弓親さんは、俺がびりびりに破っちまった服を取ると
どうするのさこれー、と溜め息混じりに悩んでいる。
俺は脳髄に走る痛みを抑えつつ、実際にカカト落とし食らった場所を手で押さえつつ、
回復しかけてるらしい弓親さんにもう一度向き直った。
「…あのね恋次」
「本当に申し訳ないですいやマジで!でも俺責任とかそういうの取ったら本格的に死ぬと思うんで、
いや既に死神ですけどあぁ死神って死ぬんすかねっていやそうじゃないっすけどあの」
「もう一回カカト食らっとく?」
「スンマセン黙ります」
ぴしゃり。
弓親さんの一言に、俺は正座を正して口を瞑った。
多分今俺が犬なら、耳はへにょんと力なく垂れ、尻尾はなす術もなくぺしゃんと下がってるだろう。
(あぁ…鳥と犬の筈なのにな…いや、鳥と蛇か?)
汚れていない掛け布団の包み布を剥がして簡単に身にまとう弓親さんを見ながら、
俺はぼーっとそんなことを思った。よし、ボケが浮かぶくらいには回復した。何からだ。
「……まぁ、赤犬にでも噛まれたと思っておくから」
「………は?」
俺の顔を見た弓親さんは、しょうがないなぁ、と言いたげに溜め息をひとつ吐いて、
僅かに苦笑を浮かべて、そう言った。
俺のシナプスとやらはその意味を掴もうと必死に考えるんだが。
……あぁ、馬鹿ってこういう時辛ぇよな。勉強してれば今の言葉の意味も
即座に解ったんかな。何回死ねってことなのか。
そんなことをぼんやり思って困った顔をしていると、
弓親さんは、またしょうがないなぁと言いたげに…今度は笑った。
「なかったことにしておくから。だから…くれぐれも恋次も誰かに言わないこと。いいね?」
「あ、は……い、いいんですか…?」
「…死にたい?」
「いや全然まだ命惜しいです」
必死に否定の意味で首をぶんぶんっと横に振る。
そんな俺を見て弓親さんは少し楽しげに笑って…つん、と俺の額を、指で押した。
「…君が見ているのが辛いほど寂しい顔してたんなら、僕にも非があるし…
責任は一角に取ってもらうから、大丈夫」
「え…?あ、いや、その…」
「だから、心配しないの…恋次が冗談でこういうことしないっていうのは、
一応わかってるつもりだけど……それとも、冗談だった?」
「いやちっとも全く!」
俺は再び、それこそ犬のように首をぶんぶんっと左右に振って…
それが面白かったのか、弓親さんはくすくすと笑った…そう、笑ってくれたってことに、俺は気づいた。
「………恋次?」
「ハイ、何すか?」
にーっこり。
何だかそんな形容をしたくなるような…ちょっと怖い笑顔を浮かべて、
弓親さんの視線は俺の顔から…つつーっと、下に滑る。
「……」
「……」
「…正直な息子さんだねぇ」
「いやぁそれだけが取り得なんで俺の息子さん」
「あはははは…」
「は、はははは…」
軽やかな笑い声。ココだけ聞けば世界が勘違いしそうなくらいな和やか空間。
だって、あれだぞ?何せ一角さんが愛で倒すくらいの滑らかバディがシーツ一枚越しで…
「…やっぱ言っちゃおうかなー」
「スンマセン今すぐ静めますんで勘弁してくださいー!!!」
そして俺は今日何度目か既に解らない土下座をしたわけだ。
嗚呼。蜘蛛の糸を掴むには、ちょっとまだ、遠い。
<終>
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