※【恋するハニカミ】を元ネタにショートストーリー。
恋するハニカミ=与えられた指令を元にデートをするとあるTV番組。
誰と、誰が、いつのどこで、何をする。
一角と、弓親が、閉園間際の夜の遊園地で、手を繋ぐ。
<いつどこはにかみ 角弓>
人影もまばらな園内のBGMは、物悲しく”蛍の光”。
遊具のネオンだけが場違いのように瞬いて、夜と言う名の黒の緞帳にぴかぴか光るビーズのよう。
何がどうしてこんな任務なのか知るよしもない二人は、
それでも一応渋々やってきて、寂しくなった園内をゆっくりと散歩していた。
当然、霊体なので、入園料がいるわけでもなければゲートから入ったわけでもない。
というよりは、気付いたらこの場所に居て指令を出された、と言った方が正しいだろう。
唯一つ確かなことは、その指令には逆らえない、ということだけだった。
「…で、どうするのさ」
宛てもなく、園内を奥へ奥へと進んでいく一角の散歩後ろを歩く弓親が、
肩を落として溜め息混じりに、声をかけた。
「そンなの俺が知るかよ。帰っていいなら帰るけどな」
「手を繋がないと出れないみたいだって、さっき言ったよね?」
「あァ?知らねェ知らねェ。そンなの俺が知るかよ」
「というかね、それで終わるんならさっさと手を繋いじゃおうよ」
「アホかお前!遊園地で手を繋ぐなんざ、女子供のやることだっつの!」
「うわ何その考え…一角、蹴っ飛ばしていい?」
「やってみやがれ。そン時ぁ十倍殴り飛ばす」
言葉を投げつけあう間にも足は止まる事無く、二人の姿はすたすたと進む。
やがて、規則正しい彩を散りばめて緩やかに動く巨大なアトラクションの前に来て、二人の足が止まった。
否、アトラクションに足を止めたのではなく。
「…行き止まりだね」
其の後ろにそびえ立つ、決して高いとは言えないが今飛び越えることの出来ない壁に。
壁よりも遥かに高い目の前のアトラクションの方にイラついたのか、それとも指令そのものにイラついているのか。
一角は、ち、とひとつ舌打ちをすると、足元を蹴って高く、高く飛び上がった。
どうする、と聞く間もなく上空へ登ってしまった相棒に、弓親はひとつ溜め息をついて。
それでも伴うように、軽やかに高く飛び上がると、緩やかに動く箱のひとつに、着地した。
「おー、高ェなぁココ。浅野ン家まで見えんじゃねェか?」
観覧車の頂上付近の籠の上で楽しそうにそんなことを言う一角に、
弓親は思わず小さく噴出して、一歩二歩進んで、真横に並び、星を散りばめたような夜景を見下ろした。
「何とかと煙は高いところに昇りたがる…って言いえて妙だねぇ」
「ンだとコラ、俺は何とかか…お、なぁアレ学校だよな?」
「ちょっと、鬼道なしでそんな遠く見えるほど僕目はおかしくないから…って」
「目ェ凝らせば見えるだろ?つーか、何だよ……あ」
高度特有の冷たい風に吹かれながら、二人の視線は一点に集中していた。
一角が学校をアレ、と示した反対の手で、弓親の手首を掴んでいて。
言葉を忘れた数瞬に、風の音だけが耳元でばたばたと鳴った。
「……繋ぐ?」
「……おう」
そっと離して、掌を握り合う。
たったそれだけのことが、何だか厳かに思えてしまえて。
だけどそれは自分達らしくなくて、直にどちらともなく笑い声が毀れた。
「まぁ、何だ…帰るか?」
海まで続く人工光の瞬きを見下ろしながら、ひとつ、ふたつ明かりが消えてく遊園地の光を背に。
動きを止めた観覧車の上で、一角が聞いた。
肌を冷やす風が吹き付けるこの場所で、繋いだ手だけが暖かくて。
あれだけ困らせられたのに、何だか名残惜しくなっていて、指をきゅっと絡めあった。
「……もう少しだけ、このまま…」
そうか、と短い返事を聞いて、弓親ははにかんだ笑みを浮かべた。
夜の帳が終幕のように、町の灯をひとつひとつ黒の中に沈めていく。
瞬く星が消えていくようで、何となく、瞳をそらす事が出来なかった。
<この番組はお詫びの提供でお送りしました>
というわけで、お詫びショート。
本当はもっと全力渾身のコメディを書くつもりでしたが。
明日(むしろ今日)は土曜なのでがっつりお題を仕上げたいと思います。
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