※パラレル注意。原作の世界観とは違う世界・能力等で設定しています。
いきなりワンシーンのみ描いています。西洋風。前提は剣やちで角弓。
今回はバトルシーンのみ。弓・やち・砕蜂。
籠の意味が解らなかった。
だから、あの”箱庭”から出ようと思った。
空を、見てみたくて。
〔 -Over- 〕
空が、崩壊する音がする。
比喩ではないのだ。現に、この”世界”では。
球状の空間に無数の時計塔がひしめき合っているこの世界では、空は地、地は空。
がざがざと音を立て、地から剥がれた建物が、空へ落ちていく。
時計針の音が、不気味に響く其の中で、蠢くふたつの影があった。
光のように走り、音のように響き、風のようにぶつかり合う。
其れは明らかな――戦い、だった。
「やァ、ッ――!!」
カタールが、風を切る。
横走りに残影が揺れるたび、時計塔がひとつふたつ、欠片を落とし、崩壊していく。
並び立つ塔を足場に右に左にと素早く揺れる少女の影は、確実に獲物を捕らえていた。
だが、獲物は全ての刃を間一髪でかわし、次の足場へと飛ぶ。
果ての見えない鬼事のように見えた其れに転機を仕掛けたのは、追われていた影であった。
広い屋根を持つ時計塔のひとつに降り立ち、追ってくる影を振り返る。
その唇が、静かに召還の詠唱を紡いだ。
「――咲け」
ギィ、ン―――!
突き出されたカタールを、呼び出されたショテルの刃が受け止める。
刀の曲線で受け止めたまま、流すように外へ払った。
払われて押し出された体が緩やかに弧を描き、同じ舞台へと着地する。
静止は、刹那。
言葉など要らなかった。追う者と追われる者。
仕留める者と抗う者。共通する思考はただ一つ。『倒せ』。
「尽敵螫殺!」
「咲き狂え!」
鋭利な爪刃と化したカタールと、複刃に姿を変えたショテルが、火花を散らす。
『突く』武器が仕掛ければ、『払う』武器が刃で防ぎ、
『払う』武器が仕掛ければ、相手は距離を取り仕掛けなおす。
リーチの短いカタールの駆使に必要なものは、速度と白兵戦能力。
其の双方を達人の域にまで極めている砕蜂が、それでも尚仕留め損ねている。
身体能力では若干分が悪い筈の弓親が、善戦しているのには理由があった。
ひとつは、扱いが非常に難しいショテルを手の延長のように使いこなす剣技を有していること。
そしてもう一つは――。
「……ねぇ、怖いかな?」
にや、と浮かべた笑みに、砕蜂ははっと息を呑み、距離を取る。
弓親が持つショテルが、妖しく翡翠色の光を浮かべた。
――相手をするのに慎重になり、一撃で仕留めるのを躊躇うほどの奥の手を、有していること。
暫し向かい合ったままの膠着状態が続いていた其処に終わりを告げたのは、
砕蜂でも弓親でもない、第三者の声だった。
「帰って」
鈴の鳴るような幼い声に共鳴するように、『世界』が崩壊を始める。
崩れ落ちる空と地に、砕蜂は声の主が見える位置に飛び移ると、きっと強く睨みつけた。
「……逃げられると思うな。何処に逃げようと、必ず追い、捕らえる」
「やだ。あたしは帰らないもん。それより…帰らなくていいの?滅んじゃうよ?」
チッ、と舌打ちをひとつ残して飛び上がると、砕蜂の姿は消えた。
崩壊を続ける世界の中、弓親はショテルを掌から消し去ると、声の主の元へ飛び移る。
『世界』に不釣合いな桃色の髪の幼い少女は、暫く無表情に砕蜂が居た場所を眺めていたが、
横に来た弓親を見上げ、にぱ、と屈託の無い笑みを浮かべる。
くるんと身を翻すと、ゴシック調の真っ黒なスカートがふわりと揺れた。
「ゆみちゃん、いこっ。出口、繋いどいたから」
やちるが指差した先の時計の文字盤が、金庫の扉のようにギィと開く。
真っ黒なその出口へと楽しげに歩を進めるやちるに、弓親は笑みを浮かべた。
「…えぇ。参りましょう」
籠に閉じ込められお人形を与えられ、何不自由なく育てられた。
だけどそれはあたしを守る為じゃなかった。
あたしを閉じ込めて、封印して、大人しくさせるために、”箱庭”は”籠”を作った。
だけど気付いたから、あたしは”箱庭”を出た。
あたし自身と、お人形を連れて。
絵本でしか見たことの無い、空を見たくて。
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