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「……アンタが」
浮かぶ相手の涙にも構わず、欲情を走らせ続ける。
交じり合う汗の温さに感じた何かは、肌の上を滑って消えた。
ケモノじみた二人の吐息だけが、闇の中、確かに。
「言えるんなら、言えばいい。一角さんに」
息を呑む声。恨めしげな視線。
滲む涙はほろりと毀れて。はらはらと止まぬ散華の様。
その眸が、きつく、憎しみと哀しみに、歪んだ。
「……卑怯者」
ぱちんとその身弾かせる鳳仙花の如く砕ける倫理。
ソレは既に欲情を言うのも生温く、おこがましい、激情。
荒々しく、唯、徒、ただ、欲して、貪って。
喰い千切るように交われば、絶頂の白さが近づく。
「アンタがッ……!」
「ひ、ぁッ…ふぁ、ん…くっ…」
どろどろに蕩けてゆく。劣情と涙だけ抱いて。
理性を本能が上回り、欲望が全てを染めていく。
「アンタが、寂しそうな顔してるから…ッ!!」
何もかもが剥がれ落ちていく。ヒトとヒトが埋め合って。
其処に後悔以外生まれぬ行為だと、十二分に理解していても。
落ちる涙は散華の様であるし、砕ける倫理は弾ける鳳仙花。
経験も、思い出も、過去も何もかも。喰らうて喰らわれて。
「残してよ……」
嬌声の淵から紡ぎ出された明朗な言葉に、恋次は目を開いた。
見上げるその眸は同じように涙に濡れたままなのに。
憎しみと、哀しみと、何もかも忘れたい快楽を孕んで。
「痕を、残してよ……この僕の、首筋に」
気が付けば、再び首筋へ歯を立てて噛み付いて。
今度は皮膚を食い破って血を流させてやろうかと。
強く噛み付けば、微かな悲鳴が嬌声に混じって消える。
――嗚呼、嗚呼。
一度転がれば二度と止まらぬ。
此処から先は黄泉比良坂よ。
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黄泉比良坂→この世とあの世(地獄)の境目と言われている坂。
一度過ぎてしまうと二度と戻れぬ場所。
日本神話のイザナギとイザナミの話で有名。
BGM:妖精帝國『孤高の創世』
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