<冬の花なら紅花の>
「だって、一角は月や空の風流は解るけど、花は食えなきゃつまらないって考えだし」
淑やかに笑う声に、艶が乗る。
酒にほろ酔いした身体で歩きながら笑う弓親。
春待ちの凍える冬空の下、吐息は真っ白く。
積もり積もった雪に混じってしまうかのように、足音は軽く。
「隊長は…とても深い方だけど、僕の考えごと呑まれてしまいそうで…」
「深みに近付かん方がえぇ。おんしは引き込まれやすいけぇの」
様子を見ながら数歩後ろを歩いていた射場が、足早に寄っては頭を撫でた。
撫でられた手のぬくもりに、弓親は嬉しそうに微笑み、雪を踏みしめる。
ふ、と。
視界に入ったのは、血よりも紅い寒椿。
「……鉄さん、僕ね、冬の花では椿が一番好き」
きゅむ、きゅむ、と雪を踏みしめて椿に寄ると、
弓親は艶やかに、何処か冷たく微笑んだ。
しゃく、と椿の足元に指を入れ、細い指先で新雪を掻き回す。
摘み上げた椿の花を指に止まらせたまま、笑みは、冷たく。
「紅牡丹の艶やかさも好きだけど、椿の散り様がね…」
くす、と、零す笑み。
月もない白と黒だけの雪の夜、椿の紅だけが異様な程に赤かった。
「椿は――潔く、首をぼとりと落とすから」
云われれば成る程。
まるでその紅が雪に散った血のようだ、と。
血に近い紅の唇が紡ぐ言の葉を、静寂な雪の世界で聞いていた。
<終>
本当にショートショート。
弓が花の事を語る話のときは必ず横に鉄さんを書きたくなります。
鉄さんは弓にとって「理解者」であればいいな、と。
その花をとってどういうことを云いたいのか、悟って汲み取ってくれるといい。
惚気だろうが愚痴だろうが不安だろうが、全部聞いてくれて受け止めてくれるといい。
そんな大人の漢な射場さんとそれに(精神的に)甘える弓親を、全力でプッシュします。
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