※女の子弓。コスプレネタ注意。
それは、書類を運んできた四番隊隊員の持ってきていた衣装箱から始まった。
「見てみてゆみちゃんっ、綺麗なお洋服~」
事務仕事を一手に任されている弓親が書類の受け渡しを行っていた横で、
無邪気な副隊長が衣装箱から一着取り出し、両手に持ってはしゃぎ始めた。
死覇装と同じ、白と黒のコントラスト。
なのにまるで違う洋服の其れは、ふわりとしたスカートやひらひらのレースで彩られ、
やちるのオトメ心を存分に刺激したらしく、今は彼女に掲げられひらりと踊っている。
「副隊長、勝手に出してはいけませんよ?」
「ッ、も、申し訳ありません綾瀬川五席、私が箱に錠をかけていなかったからで…」
「あぁ、君は気にしないで?…確かに、綺麗な服だもの。目を奪われるよ」
目の前で平伏する四番隊の平隊員に優しく声をかけ、
やちるを手招くと、その手から洋服をやんわりと取り上げ、箱に収めようとした。
「ゆみちゃんソレ仕舞っちゃやー!綺麗なのにもったいないよー」
「でも、副隊長が着るには大きいでしょう?」
「じゃ、ゆみちゃんが着て!命令!」
ぴしっ、と、元気良くやちるの指が弓親を指した。
さてどうしたものか、と弓親がちら、と横目で運んできた本人を見れば、
その本人の方が困りきった様子で、縋るように見上げている。
こうなったやちるに勝てるわけもない。正に地頭と泣く子には何とやら、だ。
長年の経験からそれを悟っている弓親は、淑やかな笑みで、四番隊の隊員に聞いた。
「ねぇ、君、この服の着付け出来る?」
「は……っ、はい、大丈夫です!」
「わーい、やったぁ★」
<MASTER, MAI”D”OLL HERE>
五席が四番隊の平隊員が持ってきた書類を受け取ると言って早一時間。
荒巻は渡り廊下で、どうしようかと悩んでいた。
仕事が進まねェからお前探して来い、と隊長と三席に部屋を追い出されたのは十分前。
今居る廊下の障子の向こう側に五席…と、副隊長が居るのは確かだ。
声が聞こえる。そう、物凄ーく楽しそうで、入るのをちょっと躊躇う声が。
別に楽しそうなところを邪魔するのを躊躇ってるわけではなくて。
こう、何というか…中から女三人の声が聞こえて、いわゆるオトメの花園状態なのだ。
「…これで完成ですが…苦しくありませんか?」
「大丈夫。ちょっと…足元が涼しいけど…」
「でもゆみちゃんカワイイよー!似合ってるよ、ぜったい!」
それにどうも中では、件の五席がお着替え中らしい。
そりゃあ、ガードがっちりのあの柔肌を拝めるものなら覗いてみたい。
…が、そんなことしたらまず命はないだろう。確実に十回は色んな方向から死ぬ。
なら外から声をかけるしかないのだが、それにしてもどうしよう。
イヤ、それよりココでもう少し中から零れる声を楽しんだほうが自分に得なんじゃないか。
そんなことを思いながら、既に数分、廊下でじっと聞き耳を立てていたのである。
「コラァ荒巻!テメェ弓親も捜さねェで、何油売ってやがんだアホ!」
「ひょへっ!?い、いや斑目三席、別に探してないわけじゃなくてですね…!」
「ア?…ンだ、ココかよ。さっさと入って連れ戻せっつの。オイ弓親ー」
業を煮やしたのかサボりの口実か、肩に斬魄刀をひっかけてやってきた三席。
彼がオトメの花園のその障子を開くのに、躊躇も何もなかった。
止める暇すらも。そう、どうしようか考えても、既にアフターカーニバル。
「―――ァー……ってお前何だそりゃ!?」
「っ!?ちょ、一角、何いきなり入ってきてるのさ!」
振り返ると、膝丈のスカートがひらんと揺れた。
足元を覆うのは、薄手の黒のストッキング。
糊をきかせた純白のブラウスの袖は、華やかなパフスリーブ。
襟元を飾る寄せレースの細工は、煩くならないよう纏められており。
真っ黒なジャンパースカートの裾裏に寄せ縫い付けられた白いフリルは、
パニエのようにスカートの裾をふわりと持ち上げ、己自身も彩りとなり。
黒髪と黒い服によく映える白のフリルは、ヘッドドレスとエプロンドレスを飾っていた。
「……新手の死覇装か?」
「何でさ…こんな死覇装で、どう戦えっていうのさ」
「俺はイイと思うぜ?寧ろ眼福」
「一角、最低」
まじまじと、形容するなら”穴が開きそうなほど”、邪な目線で一角は弓親を見詰めた。
肌の露出度なら平素+腕程度なのだが(いや、それでも露出が多いと感じる方なのだが)
サラシを外した胸は柔らかに丘を描いているし、ひらひらとするスカートから
膝下を覗かせる足は、すっと細くしなやかで。
「違うよつるりんー。これね、”めいどさん”なんだよっ★」
「明度だか冥土だか知らねェよ、つかつるりん言うなつってンだろドチビ」
「一角、喧嘩ふっかけないでよね。追い出すよ?」
「つーか”めいどさん”なら『お帰りなさいませご主人様★』くらい言いやがれってンだ」
「……え?何それ。もしかして僕のせい?」
夫婦漫才、と言えばいいだろうか。
ああいえばこういうの会話を始めた三席、五席、ついでに副隊長に、
荒巻と四番隊の平隊員は思わず困った顔を見合わせた。
初めて会うはずなのに、何故か妙に気が合った気がして、どちらともなくお辞儀をする。
そんな、一風混沌空間に、ずしりとした霊圧が訪れた。
「……どいつもコイツも居なくなりやがって…オイ。ついでに何だそりゃア」
「おぅわぁ隊長ッ!?」
「ざ、ッ、更木隊長!」
荒巻と四番隊の平隊員の声が、ユニゾンした。
ぎょろりと目線で説明を促されるも、初めて間近で見る隊長に声も出ない。
弓親はそれに気付くと一角との口論を止め、隊長に説明を始めた。
「現世の昔の女給の制服、だそうです。四番隊の倉庫で眠っていたとかで」
「はン…何だ、中々面白いモンがあるじゃねェか」
僅かに愉しさの乗った声に、ヤバイ、と弓親は思った。
周りで見る分やフォローに回る分にはいいのだが、
この状態の隊長に標的にされるのはとんでもない。
…解っているのだが、既にどうにも出来なかった。
「オイ、ソコの見ねぇ顔」
「はっ、はい…!」
「この服、貰っちまって構わねぇなァ?」
「も、ッ、勿論、全然、全く、かまいませ…ん…」
「じゃア貰うぜ。サッサと帰れ」
霊圧に当てられたのか動くことも侭為らない四番隊の隊員を荒巻が抱え上げ、部屋の外に連れて行く。
嫌な予感で逃げ出したい気満々の弓親の予想そのままに、
隊長はとんでもないことを言い出した。
「丁度いい。テメェ、今週はその格好で仕事すりゃアいいじゃねェか」
「は…?」
「さーんせー★ゆみちゃんカワイイもん!見てたいし!」
「あー、イイんじゃねェすか?別に支障なさそうですし」
「ちょ、副隊長、一角…!」
慌てて抗議の声を上げる弓親に、実は隊長以上に標的にされたくないやちるが、
ぴっと人差し指を立て、きっぱしと言い放った。
「それにゆみちゃんっ、”めいどさん”は”ご奉仕”しなくちゃダメなんだよっ?」
僕の格好は”メイドさん”ではなく”メイド”です。
そう言えぬまま、長い一週間が幕を開いたのであった。
<続…?>
というわけで、澪さまよりリクエスト頂いたネタをいただきまして。
『コスプレでメイドな女の子弓親』です(笑)
メイドな弓ちが過ごす一週間を、オールキャラ気味に書いていこうと思います。
澪さまリクネタありがとうございましたー!
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