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三条琉瑠@秘姫堂のHP兼ブログ。BLEACHで弓受で徒然なるままに。 新旧十一番隊最愛。角弓・剣弓・鉄弓などパッションの赴くままに製作中。パラレルなども取り扱い中。 ※お願い※yahooなどのオンラインブックマークはご遠慮くださいませ。
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プロフィール
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三条琉瑠
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非公開
自己紹介:
明太子の国在住の社会人。
小咄・小説を書きながら細々と地元イベントにサークル出していたり何だり。
弓受なら大概美味しく頂けます。



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※角弓微シリアス。


 ねぇ、一角

 眩い現世のその空は、暗いんじゃないよ


 あれは

 黒いんだ


 そして僕はあの黒を空とは呼びたくない


 < Sky >


 現世で言うところのイルミネーション。
ちかちかと眩くビルを照らす人工の光が目の奥でちかりとしたようで、
弓親は眉間にしわを寄せ、幾度かきゅっと瞬きをした。
 久方ぶりの現世での任務で、群れから逸れた虚の始末をしてる最中。
命じられるままに深追いをして、気づけば市街地に至っていた。
虚”だったモノ”は、足元でどす黒い血を流してぴくりとも動かない。

(――…血の赤は美しいけど、醜い)

 飛び散った血飛沫で、自分が今立っている屋上は染まっていた。
最も、普通の人間には見えるはずもないものだから、支障はないのだが。
ず、と足底を擦り付ければ、ざらりと掠れた血が不気味に線を描いた。
手も、頬も、体も、足も、返り血の血化粧で赤く、そして黒く。
 見下す瞳は冷たく、浮かべるのは――虚無。
まるでこの空――と呼べない黒い天蓋のようだと、弓親は空を仰いだ。


 ――嗚呼、黒い。


 眼下に見下ろす眩い街の光が邪魔をして、星明りを見ることは叶わない。
新月の今宵は見上げた空は一面の『黒』。
血腥い屋上で、その血を拭うことも忘れ、弓親は唯、『黒』を見上げていた。


 ふ、と。
 黒の中に別の色が混じり、此方へ飛来する何か、が見えた。


 一歩身を引いてスペースを空けると、空いた其処にざぁっ、と滑り込む音を立て、
ビルを飛びわたってきた相手が着地し、よっ、と体勢を整えた。

「一角…本隊は終わったの?」
「おーよ。後始末始まったからアイツらは帰らせた」

 アイツら、とは今回の任務に同行した十一番隊の隊員達である。
何処と無く軽いその様子に、誰一人致命的な怪我がなかったと悟り、
そう、と安堵したように弓親は頷いた。
 ひょいっと後ろの虚の残骸を覗き込んだ一角は、派手にやったなァ、と
笑いながら、地獄蝶を本隊の居た方向に向かわせた。

「お前から連絡なかッたからな。大方、後始末する連中呼んでねェんだろ?」
「あ……うん。呼んでくれるの?」
「ついでだッつの…つーか、何か調子狂うな。どッか怪我したンか?」

 しおらしく大人しい弓親の顔を不思議そうに覗き込み、
頬にこびりついた血を、一角は指先でぐいと拭ってやった。
強い指の力に嫌がるように眉を顰め首を振る姿に、いつも通りか、と一角が思ったとき。

「…あまりにも、黒いから」

 突拍子なその言葉に、あ?と訝しげに弓親を見つめる。
が、その瞳が自分ではなく上を向いているのを見ると、つられたように己も上を見上げた。


 其処にあるのは一面の、唯、只、『黒』。


「…どうして現世は、空を塗りつぶす程明るくなってしまったんだろうね」

 ぽつりと呟かれた一言に、一角はぽり、と首の後ろをかき、肩をすくめた。
高いビルを上ってくる風が、死覇装の裾を揺らす。

「星も見えない『黒』が上にあって、現世の人間は怖くないのかな…」
「怖いから、こンだけド派手に下を照らすンじゃねェか?」
「照らさなければ、星が示してくれるのに…なのに、近い光を求めるなんて、愚かだ」
「いいじゃねェか…怖がらせといてよ」
「………どうして?」

 伺うような声は怖いほど静かで、虚ろで。
感情がまるでないような瞳は、まだ髪が長かった頃の面影を残していた。
生きながらにして死に体。張り付いた表情の美しい人形。
世界全てを斜めに見て、己を打ち捨てていた出会ったばかりの弓親を思い出し、
一角は傍に寄ると、返り血に濡れあった体を引き寄せ、抱き締めていた。
 背中をさすり、薄く、聞こえぬほどの呼吸が確認出来るまで待って。
何度もやってきたように落ち着かせてから、一角は次の言葉を紡いだ。

「流魂街じゃ、死神は怖がられて嫌われンだろ。それと同じっつーコトじゃねェのかな、ってよ」
「……どういうこと?」
「だから、現世に生まれ変わってきても、黒が怖いっつー記憶があんじゃねェのか?」

 あ、と。声が毀れた。
死覇装の黒。塗りつぶされた空の色。
こじつけだ。そう思ったのに、やがて弓親の口からはくすくすと笑みが毀れていた。

「じゃあきっと…夜の黒さを怖がらない人間は、死神だったんだね」
「ん…あー、そうじゃねェか。それか瀞霊廷に近い場所に居たかだな」



 血塗れの体を気にせず暫し抱き合っていたが、
近づいてくる人のものではない霊圧に気づき、どちらともなく体を離した。

「斑目三席、本隊の方は作業完了しております…綾瀬川五席、お怪我は?」
「大丈夫。全部返り血だから…僕が仕留めたのはこれ一匹。始末、頼むよ」
「承知しました。任務、お疲れ様でした」

 到着した他隊が虚の残骸を片付け始めるのを見て、
先に帰るか、という一角の言葉に頷いて、弓親は地獄蝶を取り出した。
ひら、と僅かに飛んで、ぱきぃ、と言う音と共に、其処に戻るための扉が作られる。

「……ねぇ、一角」

 開いた紅の障子から戻る刹那、弓親が急に発した言葉に
一角は、あ?と其方を向き、何事かと続きを待った。


「此処は僕らの住む世界じゃないね。空が空でないんだもの」

 淑やかに、艶やかに笑みを浮かべ。
形作られる笑みも声も、いつも通りの弓親で。

「…そういうコトだな」

 笑みと声をひとつ残し、二人の死神の姿は、紅の障子の向こうへ消えた。

 彼らの空の下へ。


<END>

過去捏造とか何とか、色々散りばめてみました。
きっと弓は空を照らす星が好きだと思う。
でも届かないものを間近に作る人間の心情も理解できてしまうと思う。
光を散りばめたばかりに星を消してしまった行為を自分の心に重ね、危惧してしまう。
そしてそんな弓親を引き戻してくれる眩い光のひとつが、一角だと思う。
……や、頭の話ではなく(オトすなソコで)
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<冬の花なら紅花の>


「だって、一角は月や空の風流は解るけど、花は食えなきゃつまらないって考えだし」

 淑やかに笑う声に、艶が乗る。
酒にほろ酔いした身体で歩きながら笑う弓親。
春待ちの凍える冬空の下、吐息は真っ白く。
積もり積もった雪に混じってしまうかのように、足音は軽く。

「隊長は…とても深い方だけど、僕の考えごと呑まれてしまいそうで…」
「深みに近付かん方がえぇ。おんしは引き込まれやすいけぇの」

 様子を見ながら数歩後ろを歩いていた射場が、足早に寄っては頭を撫でた。
撫でられた手のぬくもりに、弓親は嬉しそうに微笑み、雪を踏みしめる。


 ふ、と。
視界に入ったのは、血よりも紅い寒椿。

「……鉄さん、僕ね、冬の花では椿が一番好き」

 きゅむ、きゅむ、と雪を踏みしめて椿に寄ると、
弓親は艶やかに、何処か冷たく微笑んだ。
しゃく、と椿の足元に指を入れ、細い指先で新雪を掻き回す。

 摘み上げた椿の花を指に止まらせたまま、笑みは、冷たく。

「紅牡丹の艶やかさも好きだけど、椿の散り様がね…」

 くす、と、零す笑み。
月もない白と黒だけの雪の夜、椿の紅だけが異様な程に赤かった。


「椿は――潔く、首をぼとりと落とすから」


 云われれば成る程。
まるでその紅が雪に散った血のようだ、と。
血に近い紅の唇が紡ぐ言の葉を、静寂な雪の世界で聞いていた。

<終>
本当にショートショート。
弓が花の事を語る話のときは必ず横に鉄さんを書きたくなります。
鉄さんは弓にとって「理解者」であればいいな、と。
その花をとってどういうことを云いたいのか、悟って汲み取ってくれるといい。
惚気だろうが愚痴だろうが不安だろうが、全部聞いてくれて受け止めてくれるといい。
そんな大人の漢な射場さんとそれに(精神的に)甘える弓親を、全力でプッシュします。
※恋次と弓親がメイン(Notカップリング)。旧十一番隊の頃の話。


 何故花火は花火という名前なのか。

 きっと花のように散って戻らないからだと思う。

 ほら、ね。美しいだろう?


<打ち上げ花火、横から見るか下から見るか>


 今年の花火は何処に見に行けばいいか、と相談していた縁側で。
心地良く冷めた茶を頂きながら、恋次は確かにそうかも、と頷いた。

「つーか、弓親さんって基本的に儚いモノ大好きですよね」
「まぁね。一時だからこその美しさ、というのかな?」

 夕日と言うには色の薄い黄色の空が姿を青くする下で、
明朗と言うのが相応しい楽しげな声で、弓親は同意を唱えた。
自分にとってトラブルメイカーに他ならないが優秀な先輩に、
はぁ、と曖昧な返事を返し、恋次はもう一口、冷めた茶を喉に流し込む。
 日が落ちきれば遅番が始まり、職務を終えた一角と射場が来ることになっている。
今日の縁側茶会の議題は夏に向けて、と一角から聞いたのは昨日だったか。
上位席官四人が顔を突き合わせる隊舎の縁側は、時に遊び場、時に話し場になっていた。

 遅春の涼しい風が、夕暮れの空を撫でる。
まだ仄明るい空に夏の夜の花火を思い浮かべ、恋次は目を細めた。
夏の一夜に流魂街の花火師が上げる花火は、霊央院時代からの娯楽のひとつだ。
十三隊に入ってからは宴会も相まって、毎年の風物詩になっていた。
 そして花火が上がるたび、いつかもう一度、”一緒に”見られればいいと思うようになった。
同じ花火を見上げているだろう、違う場所に居る幼馴染と。


「そういえば火で思い出したけど…ねぇ恋次」
「あ、ハイ。何スか?」

 ぼうっと目を細め空を見上げていた恋次は、声にはっと振り返った。
その様子には気付かないかのように、弓親は淑やかに、楽しそうに笑みを浮かべる。
薄暗くなるこれからの時間の為に用意した置き行灯から蝋燭を取り出し、火を入れて。

「蝋燭って…いつ、一番激しく燃え上がるか知ってる?」

 蝋燭越しに照らされた弓親の笑みに、何処か怖気が背中を走った。
台ごと胸の高さに蝋燭を持ち上げた弓親は、艶やかに笑んでいて。
戦いの最中のような相手の笑みに、思わず無言で首を振った。
知らなかったのもあるが、まるで、エモノを狩るその眸が怖くて。
 時々思い知らされる。
どんなに淑やかでも、この人も、戦いを好み喰らうケモノなのだ、と。

 ふぅ、と。弓親の唇から零れた吐息が、蝋燭の火を揺らめかせ、消した。

「――…其れはね、燃え尽きて消える最後の一瞬……ね、儚くて、美しいだろう?」

 笑みは穏やかで淑やかで…いつも見る、弓親の笑みに戻ってはいた。
だが、先程までその怖気に当てられて心臓の鼓動を早くした恋次は、
はは、と軽く誤魔化すように笑い、引きつった笑みを浮かべるのが精々だった。

「あー…それなら、全部儚ければいいっスね」

 そう言って、湯飲みに残った茶を一気に流し込んで、恋次は笑って弓親を見た。
きょとん、と。
その大き目の眸が不思議そうに揺れているのに気付き、恋次は思わず首を傾げた。
如何したのだろうか、と思っていると、弓親はふる、と首を振り。

「そうでもないよ。だって…美しさと幸せは、イコールではないのだから」

 空を僅かに見上げ、はっきりと、そう言った。

「……そういうモンっスかね?」
「そういうモノだよ。いつか解るよ、きっと」


 頭をぼり、とかき、恋次が如何しようかと思っているところに、どたどたと賑やかな足音が響いてきた。
方向を見遣れば、職務が終わったのであろう一角が歩いてきているところであった。
片手に、何か風呂敷包みを持って。

「お疲れ様、一角。夕餉は?」
「おう、さっき食った。つか射場さんはまだ来てねェンか?」
「お疲れ様っス…まだ、来てないっスね」
「ンじゃあ丁度いいわ。恋次、お前相手しろ」

 どさっと腰を下ろした一角が包みを解くと、薄い座布団と花札が姿を現した。
最近十一番隊きっての戦闘狂の先輩二人の間では花札が大流行しているらしく、
勝ったの負けたのどんだけ払っただの、恋次自身もよく耳にしていた。

「一角さん、俺の財布ごと巻き上げる気っスか…?」
「解ってりゃ話し早ェな。ンじゃすッぜ?俺親な」
「解ってることがすげぇ問題だと思いますソレ…!」
「あ、じゃあ僕もしたい」

 行灯に火を入れていた弓親が、にこ、と笑いながら入ってきた。
一角が手際よく札を配れば、既に敵前逃亡は死と同意と悟り、溜め息をつきつつ恋次も腰を落ち着ける。

「つーか弓親、テメェの上がる手は偏ってるから読みやすいンだけどな」
「あ、ソレ言えてますね。ある意味大物狙いというか何というか」
「カス札集めて上がるばっかりの恋次にはとやかく言われたくない」
「何でっスか!上がりは上がりじゃないッスか!」
「バッカだなお前、男ならもちッと上狙えよ。俺みてェに」
「一角もたまに赤タン連発するから同じだよ。ところで今年の花火、どの辺から見る?」
「あー、俺横からがいい。やッぱ下からだと首凝るしよ」


 儚さと限りあるモノを美しいと好む先輩の様子をちらりと見て、恋次は思った。
この限りない今をとても楽しんで愛していそうな笑みに、あぁ、と頷く。

 確かに、幸せは美しいばかりではないかもしれない。
 だけど同時に、幸せは花火のように、儚くはないのだろう、と。

<終>
旧十一番隊の会話は書いてて楽しいです…!
会話文だけならいつも、ぽんぽん出てくるのですが。
旧十一番隊席官Sの間で、花札は流行ってるといい…!
個人的に弓親は花見酒・月見酒とか猪鹿蝶とか、綺麗な手ばっかり狙いそうで(笑)
恋次は巻き上げられないように、とにかく安い手でも早く上がろうとします。
で、一角は状況に応じて狡く上がったり(笑)
でも一番の博打打は鉄さんだと思います。勝ってようが負けてようが三光以上狙い。
青タン程度じゃあ『こいこい』で更に勝負を仕掛けます。漢だ…!

孔雀はあの美しさでも肉食なのです。
鮮やかな羽根を持つ異質の鳥で、ケモノなのです。
※本日更新をお休みさせていただきます。
お詫び小説を書き上げる時間もないので、本当のショートストーリー。
弓親完全一人称。鬼道のオリジナル詠唱文があったりします。
緊急的に置いてるものなので、数日中には下げます※



「お褒めに預かり光栄ですが…
…己が対象で無いのなら、喜んだところです」

 つぅ、と、冷や汗が一筋、背中を流れた。
”まさか”そう思う。こんな危機感を抱く相手は…
――我が隊長、一人だけでいい――
まるで不徳のようで、きゅ、と唇を噛んだ

「……ご謙遜されることはありませんよ。
貴方の鬼道は、間違いなく突出してます」

 詞ばかりが淡々と零れ、上手く笑えない…
到底このままで勝てる相手ではない。
其れは良く解っている――すぅ、と吐息をひとつ深く、つき――
――胎内の、自身も操れぬ莫大で不可解な鬼道の源
<人喰い孔雀の力>を少しずつ、目覚めさせる――


 【届かぬ空穿つ白鴉~仮定未来形】


 ひゅっと、息を飲む。
余裕…というよりは最早、大胆不敵。
平素と変わらぬ笑みを讃え、両腕を大きく広げる様に、
思わず手を、伸ばしかける。
 ――違う。乗ってはいけない、まだ――
ぐ、と唇を噛み、ニィ、と歪んだ笑みを、浮かべた。
――幸い霊子は迸るほど胎内を巡っている。
律せる自信はないが、ねじ伏せれば良い――
其れよりも、決めるならこの一度で決めねば――喰われる――
冷や汗が、滲む。
両手を突き出し、 ぱんッ! と、胸の前で合わせた。

「……散在する獣の骨!
尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 動けば風 止まれば空
槍打つ音色が虚城に満ちる!」

 ヂヂ、と、掌に雷が集まる…が、其れは発射せず、
手の中に未だ留まり…破道の六十三・雷吼砲…が、其処に、
鬼道詠唱の理の外の、外道を、持ち込む…!

「…詠唱破棄、縛道の六十一・六杖光牢――ッ!!!」

 道理を捻じ曲げ、六本の”雷”の束が、
目の前の相手を囲むように出現し……が、詠唱無視の反動だろうか、
腕がミシリと悲鳴を上げ、胎内を人喰い孔雀が暴れるような感触が、した
――もう少し――そう呟くと、六本の雷の束が、
目の前の相手に襲い掛かった。



「あ…やぁッ――!!」

 ぞわ、り。
全身を駆け巡ったのは、えも云えぬ悪寒。
一矢報いたはずの己が上げる声は、余りにも悲痛で、立場とは違う…
高番の破道と縛道の掛け合わせという外道の代償が身体を蝕み、
霊子の内側から―世界に犯される、感触。
快楽とも嫌悪ともつかぬ何かが、体中を這いずり回る。
 ――だが、恐らく此れが最初で最後の機会。
未だ、膝をつく訳にはいかない――笑みを浮かべる余裕も無いまま、
汗で濡れる額に張り付いた髪に構わず顔を上げ、口角だけ、皮肉げに上げた。

「ふ、ふふ……さぁ、僕が唱え終わるのが先か、貴方が逃げるのが先か…」

 勝負は、その一瞬。
さほど距離のない相手の目の前、荒い息を抑えるようにぐっと飲むと、
震える身体を押さえ、一気に詠唱を、始める――其れは恐らく、
最初の一文だけでも相手に知れるであろう、破道最高度――

「穿たれし理!散華・赤口・玉鋼の杯!
天網恢恢万里に巡らせ 空落つ音が億里を架ける
堕罪逃さず終焉とせよ!!」

 唱え終える間に、代償が襲い掛かる。
最早自分が先か相手が先か、其の判断すらつかない――
出来る事は、唯、唱え終える、のみ!

「――破道の九十・黒棺ッ!!!」

<誰も知らぬ結末は訪れることも無く幻と消える>
 誰と、誰が、いつのどこで、何をする。

 一角と、弓親が、現世のマンションの一室で、一日かぎりの新婚生活。


 <いつどこはにかみ 角弓 2>


「おかえりなさい、ご飯にする?お風呂にする?それとも離婚?」
「早ぇよ」

 新妻の三つの神器なピンクのフリルエプロンに笑顔に三つ指。
これだけ揃えたにも関わらず、笑顔の弓親が吐いた言葉はお約束からは程遠いモノだった。
これまたお約束とばかりに似合わないスーツを着た一角は、靴を脱ぎながらしっかりツッコんだ。
 現世のどこにでもありそうなマンションの一室。
きちんと整えられた室内には所々に花が飾られており、ドコからどう見ても暖かな新婚家庭、だった。

「つーか何だこの服、すげェ動き辛ェ…現世の連中はこンなモンで仕事してんのかよ」

 鞄を弓親に預けた一角が、堅苦しいスーツの上着をばさりと脱ぎ、食卓の椅子にかけた。
動きやすい軽装を好む一角には、どうにも暑苦しくて合わないようだ。
預かった鞄を箪笥の前に置きながら、その様子に弓親は思わずくすくすと笑みを浮かべる。

「そりゃあ、それは現世のデスクワーカー用の服だもの。一角に合わなくて当然でしょ?」
「ったく、何だって俺がこんなカッコしねェといけねぇんだっつの」
「しょうがないよ。そういう指令なんだし」

 どうも今回は、ごく一般のサラリーマン新婚家庭、らしい。
ぶつくさ言いつつネクタイの結び目に指を入れしゅるっと乱雑に緩めると、一角は食卓についた。

「じゃあ、ご飯にする?」
「んにゃ…オーイ、ちょっと来い」

 台所に向かい始める弓親を呼び止めて、一角はちょいっと手招きをした。
食事の準備をしようと簡素にアップにした髪から手を離し、何?と不思議そうに弓親は身を寄せる。
柔らかな色のTシャツと短パンとスリッパ、という簡単な姿が、一角の目の前に来たその時。

 ひょいっ。

「ッ!!?な、何、なにっ?!」

 一瞬。本当に一瞬だった。
所謂これも新婚生活のお約束の一部。旦那が奥様をお姫様抱っこ。
一角は足で行儀悪く襖を開けると、薄暗い部屋のベッドに弓親を放り投げ、圧し掛かった。

「ちょ、っと、本当に何なのさ一角ッ!」
「ウルセェ。俺ぁとっととこンな下らねェこと終わらせてェんだ!」
「だからって、ちょ…一角の馬鹿ッ!!そんなのココに書ける訳ないじゃない!このブログ終わらす気!?」
「あァ?知るかンなコト!新婚生活すりゃ終わるんだろうが!とっとと夜の営みで終わらせンのが一番だっつの!」

 じったばったと柔らかなベッドの上で暴れる弓親の手首を、がしっと押さえて。
半分ヤケになっている一角が、サッサとコトを済ませてしまおうと体重をかける。
きしっとベッドのスプリングが軋み、その重みに弓親が眉を顰めたのを見て、
一角は押さえていた手首を片手に束ねると、開いた手で弓親の短パンに手をかけた。が。

 ば、きッ!!

「…っく、てめッ……脇腹は反則だろうが…!」
「一角、サイッテー…」

 渾身の奥様キックが脇腹に炸裂!
夜のプロレスは幕が開く間もなく1RKOで決着だー!
…そんな実況をしたくなるような光景が、色っぽさもへったくれもなくなったベッドの上で、
今まさに間違いなく現在進行形で、展開されていた。
 はー、はーっ、と息を荒くし涙目で後ずさる弓親は、枕を手に持って防御体勢に入る。
暫く悶絶していた一角が脇腹を押さえながらゆらりと立ち上がったとき、2Rのゴングが鳴った。

「テメェ…頭に来た。ゼッテェ泣かす…!」
「やってみなよ…絶対やらせないんだから…!」


 コレ何てドメスティックバイオレンス?

 そんな疑問も空しく、痴話喧嘩というには余りにも力の強すぎる、いっそ取っ組み合いが始まった。

 ていうか純粋にバイオレンス。

<この番組はお詫びの提供でお送りしました>

マッドでサイコなモノだけなのは忍びないので、お詫びショート。
寧ろお詫びショートにお詫びしなくてはならないようなオチでゴメンナサイ(笑)
期待していた方ゴメンナサイ。でも書いていた本人は本気で楽しかったです(笑)
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